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2007-08-12 10:22
[days]【私のミステリな日々】2007年8月上旬 The Ceiling Of Hell by Warren Murphy 東郷隆 「異国の狐」ブライアン・フリーマントル「屍泥棒」
◎ウォーレン・マーフィ「地獄の天井」サンケイ文庫 1986年、540円、100円
The Ceiling Of Hell by Warren Murphy 1984.
アメリカ大統領SPのスティーヴ・フックスは、精神病者が大統領を狙撃した事件で、同僚を失い、自分も足に重症を負い、しかもたまたま見学に来ていた妻を植物人間にされてしまうという目にあって〉P辞任して、警備会社を始める。
彼は日本でいう機械警備業をしようと思っているのだけれど、元同僚等がおせっかいに紹介してくれる客は、ボディガードだった。その客の一人が、ドイツ人のナチ問題評論家でNYに第二次世界大戦末期にドイツから、アメリカに渡ったという記録がドイツ側に残っている女性を探しに来たのだった。ボディガードとともに、その女性を探す調査も作家から頼まれてしまうのだが[Yを観光案内のように一日ガードしただけで、作家は暗殺されてしまう。
依頼をしくじってしまった結果になったわけだが'BIもCIAもスティーヴにドイツへ、作家の遺族に会いに行って事実を伝え、守りきれなかったアメリカ当局(表立っては警護できない理由があったと匂わせる)の代わりに謝罪してほしいというもの。
CIA保証のアメックスカードとともにドイツに飛び、被害者の娘と知り合いになったりするうちに、スティーヴは、何者かに誘拐されて尋問を受け、作家の調査資料の場所まで尋ねられるが、しらないものは知らないで通して無事釈放された。どうやら、ネオナチが絡んでいるらしい。ドイツ旅行は、まったくなんの成果もなしに帰ってきたのだが、アメリカ情報当局は別になにもないということなら派遣は成功であるみたいなことを言って、別の仕事を紹介してくれた。
カリフォルニア選出の上院議員の私邸でもある巨大農場の機械警備システム構築の仕事だった。その仕事の最中、被害者の娘が現れ、娘の借りたモーテルへ二人で帰り、車に酒を取りにちょっと遅れた時間差で娘は殺されてしまう。同じころ、ドイツでは、被害者未亡人や、研究所の後を継いだ学者や、仲介してくれたCIAエージェントの大使館外交官までが殺されていた。
そこに、殺された評論家は弟の実業家で、自分の身代わりになったと本物の作家が|IAエージェントとともに現れたのだが、この二人もスティーヴと会っている最中に暗殺されてしまう。これは自分も危ないと姿を消すスティーヴ。
そのうえ、スティーブの植物人間状態の妻まで殺される。あきらかに、妻の葬儀に出てくるだろうという罠が仕掛けてあると見破ったスティーヴは潜伏を続ける。
ここにいたって、スティーブは敢然と、アメリカをのっとり世界を支配しようとしているナチズムと孤独な戦いを始める。一連の流れから、スティーヴは、犯人グループの中心人物とそのアメリカ乗っ取りの大陰謀を推理していた。
最大のミステリを説明すると興味半減するので触れられないが、とにかく、正義=スティーヴは勝つのだ。
アクション的にも、ゆれるボートの上で犯人と対決して、複雑な陰謀のほとんど成功という確信に酔っている犯人から、妻の殺人実行犯人が彼だという自白を引き出したあとに銃撃戦。
続く、ボートの大爆発。
勝つのだけれど、最終的な勝利のために、スティーヴはクラークケントのごとく、名前をも顔も変えて世に潜む幕切れなのです。
「地獄の天丼」と読み誤って買ったのですけど、思いもかけず一気読みを誘ってくれるサスペンスものでした。訳がところどころ変なところがありますが、それすらも気にならないほどの迫力あるストーリー展開です。
◎東郷隆 「異国の狐」光文社時代小説文庫 2006年、619円+税
単行本、光文社 2003年
芝神明の万吉の異名は「とげ抜き」の万吉。これは、先代の万蔵も「とげ抜き」と異名をとった名目明しだったのだけれど、先代は実際、「よしよし」と唱えるだけで、体に刺さったものやとげを抜く超能力医術の使い手で有名だったのです。息子の万吉は、社会のとげ、心をとげを抜いてくれるというので売り出し中という違いがある。
「御鷹女郎」「御台場嵐」「白鷺屋敷」「異国の狐」の中篇が4つ。
稀代のストーリーテラーが初めて書く捕物帳だから、その話術と背景の歴史事象の料理具合に舌鼓をうつべきで、クイズミステリ風のトリックだとか、心理と人情の闇とかは期待しないほうが無難です。
「御台場嵐」は、黒船来航さわぎで、御台場建設投資バブルを背景に、幕府が625文で1朱の相場なのに、わざわざ250文と刻印を打った、一朱銀を造って、それで人夫の日当に当てた。一朱というのは、一両の16分の一だから、米相場からの換算で2500円相当(これだって恐ろしく安いけど、単純肉体労働者で税金・保険等いっさいかからないのだから、まあ、失業対策事業としてみたら相場かなと思う)だったのを、これは1朱だが、実は1000円にしか使えないぞと特別通貨を発行したことになる。たぶん、最初は幕府直轄工事だったから、予算枠がこれこれしかなく、必要な日数・人工はこれだけいる。で単純に予算を日数・人工で割ったんじゃあるまいなと思いたくなる数字ですね。
その御台場銀を口に含んだ死体が発見されて、万吉は捜査を開始する。遊女屋でいつづけ、御台場銀で支払いを済ませようとして、リンチにあって桶伏でさらしものになっていた人足だった。誰が彼を桶から助けて、誰が何故彼を刺し殺したのか。同じような死体がもう一つ出てくる。
事件を解決してみれば、まあ、普通の捕物帳なんだけど、御台場銀というお化け貨幣が引き起こす社会現象がおいしい味付けになっているんですね。
他の3つも、江戸ものが好きな人には、たっぷりと雰囲気に浸れますよ。
◎ブライアン・フリーマントル「屍泥棒」新潮文庫1999年、629円+税、300円。
The Mind Reader by Brian Freemantle
EUの統一警察組織として生まれたユーロポール。その一ディヴィジョンとして、心理分析官がおかれ、その一人にクローディーヌ・カーターがが任命される。FBIの心理分析官が、各州の警察に横入り風協力をして、そのプロファイリングを武器に犯罪解決に寄与するように‥U各国の警察に横入り協力をして、事件を解決していくという、短編12話からなるシリーズです。
プロファイラーの扱うのは犯罪心理を主題にする事件なので、短編で扱うには、犯罪者の側の心理を単なる報告書風に述べるしかなくなってるところが、いかに、ストーリーテリングの天才のフリーマントルをもってしても、半完成品の趣があります。
フリーマントルの才能をまるでオペラのガラコンサートで浪費してるような出来と思ったら、仕掛け人は日本の新潮社だったのです。自分のところの小説雑誌にメダマを作るために依頼したそうだが、企画としても失敗していると思います。
大恐慌の数字
ただ、フリーマントルは、この連作で固めた探偵キャラクターと設定を使ってゝ00頁の長編をイギリスで出しているとか。そちらは、十分に面白いと予想しますが、この新潮文庫は、フリーマントルの創作ノートみたいなものと思って読まないと、なんだこれは。。。フリーマントルって、こんなのではないぞと腹を立てることになるでしょう。訳文もへんなところが多々見受けられるので古本屋で100円で売られていても、パスすべきでしょう。
ミステリ舞踏派久光@10日に湯河原で列車見張り一日やった後遺症でちょっと体調不良。電車で往復してれば、一冊読めたんだけど、車での往復6時間は用意していった2冊もまったく読めなかった。長距離ドライブなんかやったことないから、フロントグラスの向うに飛び込んできては去る風景で楽しんでしまったのです。
2007-08-03 19:26
[days]【私のミステリな日々】八月下旬 久光 東理夫 「暁の翼の男 ワイキキ探偵事務所3」藤田宜永 「パリを掘り返せ」東野圭吾 「鳥人計画」藤田宜永 「地獄までドリブル」広山義慶「夏回帰線」赤川次郎 「灰の中の悪魔」藤田宜永 「標的の向こう側」
Newsgroups: mystery/salon
From:
Date: 20 Sep 1999 19:55:55 +0900
パセリのオフで、ディーディーさんから、スカジーボードを入れて"RQがおかしくなった経験を教えてもらった。彼の場合々5の再インストールの度に、スカジーボードを引っこ抜いて、インストール後に差すということをしばしば繰り返したそうな。終いには、躯体カバーをはずしっぱなしにしたとか。
うむ、似たような状態に僕の芸投影もある。モデムを買って来たけど、これを入れて、ちゃんとポートが認識されるかどうかわからない。
ともあれ、これは、会社に置いてあるバイオから、送ろう。
(2007年注:このころ歌舞伎町のビル管理会社に勤めていて、事務所に、自分のバイオを持ち込んで仕事と趣味に兼用していたのでした)
◎東 理夫 「暁の翼の男 ワイキキ探偵事務所3」光文社文庫 1990年 380円(古本屋で100円)
この作者のハワイシリーズ、第三作。もぐりの私立探偵キョーヘイのところにリンドバーグ(あの大西洋横断した有名な飛行士)の心臓を探しに、日本人の老人がやって来る。心臓は口実で、実は、アメリカ大統領の暗殺が目的だったのだが、その動機は戦中によくあったらしいのだが、米軍の跳ね上がり操縦士が一般の市民を戦闘機から銃撃して殺したという事件だった。老人は機番号から、操縦士を特定し、その男がが大統領になっているのを知った・・・
まあ、謎は、ほとんどない。少なくとも本格派風パズルの謎は。ないけれど探偵物語になっていて、仕事の都合で盆休みがなくなった男の、電話もかかってこない、事務所の留守番の時間潰しの読書としては最適でした。読み終わって、後口のいいお話でした。ああ、また、ハワイに行きたいなあ。
◎藤田 宜永 「パリを掘り返せ」徳間文庫 1995年 660円(古本屋で300円) 単行本は、1992年。
ロスアンゼルスの地下が石油だらけなのは、知っていたけど、パリ盆地の下に石油があるなんて、しらなかった。
テキサスで石油掘りを覚えた東山俊太郎が、ナチ占領下のパリで、日本軍人に強制されて、石油堀を始めたが、いつのまにか、レジスタンスと関わり、レジスタンスに肩入れするようになる。さあ、石油は出るか、レジスタンスといっしょに、ナチの手から脱出できるか・・・実に面白かった。でも、これは、ミステリではなく冒険小説でした。
裏表紙に、「長編冒険小説」とちゃあんと書かれてあった。
パリにも行きたいなあ。
(2007注:まあ、このころはパリとかハワイとかけっこう現実味があったんですいまや、完全な夢と化してしまってますが)
◎東野 圭吾 「鳥人計画」新潮文庫 1994年 480円 (古本屋で200円)
暑いときは、雪のある季節の話が読みたいと買って、熱帯夜の午前3時に読み上げた。単行本は1989年。
あんまり、この作家買ってなかったのだけれど、このジャンプ一発で見直した。
万年二位のジャンパーの沢村が、どうしても勝てなかった天才ジャンパーが毒物死して、日の目がやっと当たるかと思ったら、天才ジャンパーによく似たフォームで飛ぶ新人に、またもや後塵を拝まされるはめになり、そのトレーニングの秘密を探ろうとする。それが殺人事件の真実をも明らかにしてしまうという、お話。
◎藤田 宜永 「地獄までドリブル」光文社文庫 1994年 540円(古本屋で250円)
阿佐ヶ谷のパールセンターの青梅街道よりのビルの地下に出来て、まだ1年くらいの古本屋で、藤田の本が三冊並んでいたのを、まとめて買った。その二冊め。
パリの日本人相手の旅行代理店のマネージャーの西貝の息子が誘拐事件の犯人と間違えられて、ダーティハリーを気取る警官に射たれた。裁判になったが、判事は無罪を宣告。そのショックで息子は自殺する。西貝は、判事と警官を射殺するこを決心、つけねらい始めたとたんに、判事も警官も殺されて、西貝は容疑者として追われることになった。
元警視の私立探偵シュベヌマン、ガボン移民の少年オマールと奇妙なトリオを組んで、西貝は息子の死の真相を追いかけると、息子のパトリックが親に見せなかった闇が見えて来た。息子の死も自殺ではなく殺人事件であったことがわかる。背景にあったのは、フランスサッカー界を牛耳る勢力の秘密だった。最後はそのボスに捕まって危機一髪。辛くも逆転ゴールが決まって、西貝は元のマネージャーの生活へ戻っていく。
不満があるとすれば、なんで逆転ゴールの瞬間にオマールを殺しちゃうのだ・・・ということくらいか。単行本は1992年。
◎広山 義慶「夏回帰線」角川文庫 1994年 520円 (古本屋で100円)
初出が ̄985年。ワゴンセールから拾い上げて ̄0ページほど読んで、うん、これ、暗いなあ・・・
> 三十六年目の英霊か。
が書き出しだもの。
こういう時は、解説者で決める。勝目梓。では、買ってみようか。
まあ、過去を暴く話ですから、後味はよくなるわけもないけど、人間の業とか、人生の落し穴とか、そういう文学風味が好きな方には受けるかもしれない。
章題が、「序章」「エンジュの十字架」「点と線」「過去からの声」「老兵の沈黙」「二人の孤児」「娼婦マヤ」「仮面の男」「張込み」「翡翠の胸飾り」「終章」とどっかで聞いたような題なのが気になります。広山氏が趣向を凝らしているような気がするんですが。
でもカバー裏のコピーは何とかならないかなあ。
『・・・終戦直後の未曾有の混乱期、運命的に結び付けられた少女と少年の三十六年にわたる愛欲のなれの果てを藤代警部の捜査を通して痛切に描いた感動の名作。長編本格推理。』
「愛欲のなれの果て」・・・これ読んで、買う気になるかなあ。誰だろう、こんなキャッチコピーを書いたのは。
◎赤川 次郎 「灰の中の悪魔」光文社文庫 1990年420円 (古本屋で100円)
女子高校生トリオの悪魔シリーズの第1作なんだそうです。
1998ー99年に「高2V進学コース」に、連載されたとか。昔は「高2コース」というのがあった・・・そういえば、最近福武書店との競争にまけて、廃刊になったというニュースがあったような。
学内脅迫事件がテーマです。
人間の興味の物語は何ですか?
学内脅迫、女の子のトリオ探偵・・・なんか、この設定はあったなあと思ったら、介錯の「三銃士事件帖」(1998年12月から連載中)だった。多分、気がつかないうちに介錯は赤川の影響うけてますね。悪魔の方が花園学園、三銃士の方が華星学園だし。
読んで、一月たったら、ほとんど筋を忘れてしまったところも・・・
また、古本屋で見つけたら買いかねないです(笑い)。
◎藤田 宜永 「標的の向こう側」角川文庫 1996年 680円 (古本屋で330円)
今年、古本屋で初めて見つけてから、見つけると新本古本も問わず速攻で買うという作家になってしまった。
初出は、1987年だから、角川は、ずいぶんと文庫にしなかったものです。
探偵は、フランス国籍の日系私立探偵、鈴切信吾。パリで信吾は暴力団の組長の娘と日本から駆け落ちして来たチンピラを助けるはめになる。そのチンピラの姉がスペインの富豪と結婚していて、その姉から信吾は夫の浮気調査を依頼される。調査を始めないうちに、夫が愛人のところで殺された。パリ−スペイン−パリとハードボイルドな展開で、センチメンタルハードボイルドな結末。ガラスの鍵が好きな人は読んで損のないお話です。それと青池のエロイカシリーズの好きな方にも。
以上、今年の夏は暑かった・・・けど、けっこう安眠していたクーラー苦手なミステリ舞踏派久光
ASAHI Net BBB Service - 07/ 7/29 21:12:42
to------------------------------------------------------------kokomade.
うん、しかし、書く気力と時間がいっぱいあったんですねえ。
最近、くたびれてるのかなあ。でも、過去のログを読み返すと、また書く気がわいてくる。
ミステリ舞踏派久光@それにしても今年の夏も暑いなあ。
2007-08-02 22:51
[days]【私のミステリな日々】2001年8月マーガレット・ミラー「心憑かれて」釣巻礼公「奇術師のパズル」モリー・カッツ「あなたの素顔は見たくない」
今年も8月になってしまった。6年前の夏はこんなことをアップしていた。
kokokara------------------------------------201827/2485201620, ms#2478
◎マーガレット・ミラー 「心憑かれて」創元推理文庫 1990年 100円 定価 680円
The Fiend by Margaret Millar, 1964
9歳のジェシーは、母親エレン父親デイヴ、兄のマイクと四人暮し。親友のメアリー・マーサとは、家もご近所で、メアリー・マーサの母親ケイトは夫のシェリダンと別居中。ジェシーの隣家のヴァージニアさんは、子どもがいないから、留守がちの夫への淋しさもあって、ジェシーを可愛がって、色々ものを買い与えるので、エレンは気に食わない。ヴァージニアの夫も最近隙間風の原因が、ジェシーのせいだと思っている節がある。
ジェシーを物陰からじっと見つめるチャールズは、ロリコンの前科者で、兄のベンが保護観察者になって生活している。もちろん女の子達の集まる学校や、公園に近づくことは裁判所から禁じられている。
と、こういう舞台での心理サスペンスが展開する。チャーリーが、自分の衝動をおさへ兼ねて、煩悶、苦悶、煩悩の闇であがくうちに、ジェシーが行方不明になる。この行方を追うのは、ケイトの知り合いの弁護士マックこと、ラルフ・マクファーソン。
筋をこれ以上書くのはやめよう。解説が宮部みゆきで、異常心理ものについての短い解説を書いて、この「こころ憑かれて」といわゆる異常心理ものの違いを説明してくれる。そう、宮部みゆきの登場人物たちのこころと近いアメリカ人のこころの物語になっているのです。
宮部みゆきは、(「知名爆砕物語には」じゃなかった)「血なまぐさい物語には、ごく自然に人間をひきつけるものが秘められているからです。それが書き手であろうと、読み手であろうと」と書いてる。(池田小学校の報道の量見てると、この文章を思い出してしまう。)それだから、異常心理もののほとんどが、「『外』に向かって狂気を解放し爆発的な凶行に走るのとは対照的に、ミラーの描く『狂気』を抱えた人物は、みな『内』にむかって」、「コーヒーカップの底に落としこまれた角砂糖のように、じわじわと内部崩壊してゆく」と書いています。うん、この比喩、さすがですねえ。そうして角砂糖が崩壊して甘味が残るように、「ひそやかな祈りにも満ちている」。
これ以上、この本について付け加える言葉なんかないですね。
まだ、絶版になってません。
◎釣巻礼公 「奇術師のパズル」光文社カッパノヴェルス 1999年 350円 定価848円
探偵役がスクールカウンセラーの棟谷志保子、助っ人が、隣中学の生徒指導担当教員の半沢。着任した中学の三年A組は、誰もカウンセリングに現れないが、事件の多発するクラスだった。昨年は、学年トップの女子中学生が川原で頭部打撲死体でみつかり、この三年になった日に、問題児の少年が保険体育の教師に説諭された後、頭部打撲で意識不明で見つかって、保険体育の乱暴教師が疑われた。
ついに、文化祭の前に、鍵のかかった体育館のなかで、美少女の中学生が毒死する。クラスの出し物の、四メートルの十メートル高さ二メートルくらいの、オブジェの中で発見されたのです。このオブジェの外には、人物が描かれていたが、その数が五人だったり、四人だったりと数が増減するうちに、このオブジェが燃やされ、文化祭は中止になる。
この密室トリックが謎なんだけど、パズル好きには、なあんだとわかってしまう、有名幾何パズルです。だから、著者は、「では、何故、誰が」という謎で、複雑な人の心の綾を織り出して、こちらは成功しています。
けっこう魅力的なキャラクターが多数登場します。登場するけど、描写してるストーリーに余裕がないのが残念。
問題があるとすれば、このトリックは、頭で考えると出来そうなんだけど、真犯人がわれてから、そのフィジカルタレントを勘定に入れると、ちょっと無理なんじゃなかろうか・・・というところですね。
暴力教師にぶん殴られて顔を腫らして、逆襲して、暴力教師を泣きながら蹴りまくる早瀬真琴という少女がいいです。中学生達の性格が歪みはじめるのは、一人を除いて、教師から受けたトラウマにあるというのは、なっとくしてしまいます。
その歪んだ教師たちが何故、大量に出てきて、同じような官僚たちが出てくるのかという分析も、徹底して物理的(食物)説明でしてしまう釣巻流も説得力あります。この志保子、半沢、真琴トリオで、また書いてくれないかなあ。
◎モリー・カッツ 「あなたの素顔は見たくない」文春文庫 1998年 100円 定価638円
Love, Honor, and Kill by Molly Katz, 1997
キャロンは、夫にふるわれた暴行の傷だらけで ̄9分署に駆け込んで、保護を求めたが、警官はその傷を見ても、まったく信用せずに夫に連絡した。彼女の夫は、トークショーのスターで国民的人気を得ているハリー・クラヴィッツだったからである。(この名前をレニー・クラヴィッツが読んだら、あんまり気分よくないだろうなあ)
家庭内暴力のレスキューセンターに保護してもらった、その夜、ナイフを持った男がベランダに侵入してきたが、キャロンは、手当たりしだいにものをぶつけて急場をしのぐ。
どうして、夫は知ることが出来たのだろう?警察内部のミーハー警官が連絡したとしか思えない。彼女は、義理の息子のジョシュア連れて、逃亡を開始する。
なぜフランス人はアメリカに移住しましたか?
夫の知らない友人にジョシュアを預け、彼女は、ハリーの家庭内暴力と暴行が昔からひそかに続いているに違いないと推理して、ハリーの過去を探りにボロボロのオールズモービルに乗って、アメリカ大陸を走りまわる。
ハリーは、自分の番組で、脳腫瘍の女房が精神に変調をきたして、息子を連れて逃げ回っていると訴える。
彼女はハリーを信じるファンたちの目からも逃れて、調べ続けるが、外科医の彼女をメスで自殺に見せかけて殺せと、ハリーから依頼された殺し屋が次々と追いかけてくる。
彼女に有利な証言をしそうな親戚、元妻、彼女を弁護する恩師も、この暗殺者に次々に倒される上、うっかり、トイレで無け無しの六十ドルも万引きされて、窮地にたってしまう。
ここで、ハリーに昔はめられて二年間服役したことのあるジャーナリスト、ジャックがハリーの悪を暴きに彼女へコンタクトしてきて、二人は一緒に逃亡調査を再開する。
うん、このハリー・クラヴィッツの異常性格はちょっと書くのをはばかるくらい醜悪で、その犯罪歴も読んだ後思い出したくないほどひどい。でも、彼なりに、それを隠してなり上がり、自制して家庭を作ってきたのだけれど、仕事のストレスがかかると、先ず外で弱者を狩り、それもままならなくなると、身内へ暴力が向かうという末期的なもの。
カッツは、家庭内暴力カウンセラーが仕事でもあるから、このタイプの犯罪者の典型を、きっちり書いてみせた。(カッツとは逆に、そのうち、誰か男の作家が、妻の家庭内暴力をミステリーサスペンスに書くかもしれない。今書いたら、ブラックコメディにしかならないだ
ろうけど。)
でもとにかく、キャロンはハリーを刑務所の中へ放り込むのだ。それでもハリーのファンは、彼の無実を信じて刑務所へデモをかけるのだが、ハリーの方は、弱者いじめへの欲求ををこらえきれずに、ジャンキーの老人収容者を襲って、まともな心の収容者たちからリンチにあって殺され、やっとハッピーエンド。
それでもなお、ハリーの元秘書は実の娘まで犠牲になりかけたのに、ハリーの有罪を認めたがらず、家庭内暴力の被害者自身が家庭内暴力を認めたがらない心理パターンをなぞるように、物語は終わる。
久米宏とか、みのもんたとか、ビートタケシを、ハリー・クラヴィッツに擬してみても、今一つだなあ。ビートタケシじゃあ、異常性格者ぴったり過ぎるね(笑い。たけしさんごめんなさい)香取真吾あたりは、まだTOO YOUNG 。
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選挙は安倍大敗でも、やめない。。。顔もヒトラー似だけど、それほど頭のよくない。性格も独裁者(家庭内の独裁者子どもがそのまま大人になってるだけだから当然か)ではあるが、独裁政治家になるには器が違う。商売人の家に生まれてたら、気がついたら会社潰れてましたか、人を見る目のある父ならばアパートマンション経営に転じて財産を相続させるだろうに。
アメリカだって似たようなものだ。カート・ヴォネガットが、ブッシュを陰毛と評して、こんな奴等と一緒に同時代を生きるのはうんざりと書いたが、その彼ももういない。
日米の腐り方は、もうどうしようもないのかなあ。
久しぶりに選挙に行って、なんか馬鹿コケにされた気分です。
ミステリ舞踏派久光
2007-07-30 06:46
[days]【私のみすてりな日々】2001年6月藤田宜永「巴里からの遺言」ジェイン・スタントン・ヒッチコック「目は嘘をつく」花村萬月「皆月」
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◎藤田宜永 「巴里からの遺言」文春文庫 1998年 100円 定価524円
初出1995年
カバーの写真がいいんです。ユジェーヌ・アジェです。
ストーリーもセンチメンタルでいいんです。
謎は、家を捨てた爺さんの息子への手紙を父が受け取りを拒否していたのを、父の友人から孫へ引き渡されたことで、何かがはじけて、高校教師をやめて、パリにわたった「僕」が追いかける祖父の片桐忠次の実像と運命なのです。
時は、田中角栄が一昨日逮捕されたというから ̄976年のこと。祖父の時代は、ユトリロとアジェの時代。六話の話が並んでいる。日本人元レスラーの運命。日本人の医者に化けた日系フランス人。アルジェリアへ出稼ぎに来て、パリにいる娘を捜している道楽親父のなれの果て。剣道派遣教師の警察官。日本人高級娼婦の五話に続いて、最後は忠次を知っていたパリジェンヌの黄昏のバルバラ・ジロー。彼女のお蔭で、祖父と息子と孫が全てつながって話は、完結する。「僕」こと、リューイチは、そのままパリに留まる。
藤田宜永は、帰って次々と、充実したエンターテインメントを発表してくれているけどね。
解説によれば、現在のフランス文学科というのはもっとも不人気な学科だそうだ。七十年代とは違うのだという。
うん、そうだよなあ、最近フランス発信の文化の日本語訳紹介は少なくなった。
まあ、我が青春の70年代を振り返ってみれば、シャンソンは銀巴里ジジババ趣味だったけど、シルビィ・バルタン、ミシェル・ポルナレフ、クロード・フランソワ、ジャン・ポール・ベルモンド、パトリック・ドゥバルデビュ、ロラン・バルト、フーコー、バタイユ、トリュフォー、サガン、バザン、ル・クレジオ、アヌーク・エーメ、イザベル・アジャーニ、ジョルジュ・シムノン。
今のフランスと言ったら、バネッサ・パラディくらいかな。
あ、サッカーとラグビーは元気ですね。でも、文学科とは無縁な世界です。トルシェはともかく、ベンゲルは英語でしゃべるしね。
うん、何いいたいかというと、この本は藤田の「感情教育」なんですね。
◎ジェイン・スタントン・ヒッチコック 「目は嘘をつく」ハヤカワ文庫 1994年 100円 定価660円
Trick of The Eye by Jane Stanton Hitchcock, 1992
恋愛抜きのゴシックロマンですね。
39歳のTrompe l'oeil (騙し絵)画家フェイスは、大金持ちの未亡人の邸宅の舞踏場の壁画を頼まれる。城みたいな家に住みこみの仕事だった。うん、ここが典型的ゴシックロマンの導入部ですね。若い女性が、婚約者または秘書、家庭教師なんかの役で、金持ちの古城みたいな家へ入っていくのだ。
13年前に殺された未亡人の娘とフェイスは、同じ年頃で顔もスタイルもよく似ていた。フェイスは、何故か娘が出席しなかった、彼女の18歳のデビュタントの舞踏会の騙し絵を描くことにして、迷宮入りした娘の刺殺事件の真実をおい駆け始める。最有力容疑者は、夫だったが、実は犯人は別人だった。
真犯人を夫は知っているはずと、フェイスはさらに旅にでる。
何故彼女は死んだ娘に似ているのか・・・真実が全て解明された最後に用意されている、おきまりのどんでん返し。まるで、ギリシア悲劇を読まされるようなラストです。
そう言えば、死んだ娘の名前はカッサンドラだものね。
そのまんま、舞台で演じられそうなミステリです。
◎花村萬月 「皆月」講談社文庫 2000年 300円 定価629円 初出1997年
ハードボイルド風味の傑作です。
橋梁計算の専門プログラマー諏訪徳雄は、ある日、女房に逃げられる。女房は、「みんな月でした。がまんの限界です。さようなら。」と書き残して、一千万円の預金も、小銭もクレジットカードもみんな持って、姿を消した。徳雄は、妻の弟の一匹狼のヤクザのアキラとソープ嬢の由美と三人で、妻を捜す旅に出る。
筋は簡単なんだけど、自己中心性格の助平な四十男がセクシーなやさしいスケベ男へと変身して行く流れがいいんだなあ。ハードボイルドって、こういうのを言うんだ。
ただ、自分の女房を捜すというところが、ハードボイルド風味と言う理由なんだが、この風味は本物の風味です。
吉川栄治文学新人賞受賞だそうだけど、これなら、芥川賞をもらったものは読まない主義の舞踏派だけれど受賞作品の「ゲルマニウムの夜」も読んで見よう。
もっとも、萬月作品の感想はもう書かないだろう。ミステリでもクライムでもないから。
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花村について今なら[annex]で書けるから、そのうち書くかもね。
2001年の6月のアップロードです。そのころ失業中だったから、ちょっと、回顧モードが入っていますね。(笑い)
あれ、これは、サッカーというキーワードで引っかかっただけですね。ちゃんと表題で探しなおさねば。
わお、自民党大敗。それでも安倍はやめないとか。まだ結果は出てないとかexcuseを言ってる。わかってないなあ。
ミステリ舞踏派久光
2007-07-23 06:24
[days]◎佐々木譲「笑う警官」ハルキ文庫 2007年 686円+税
単行本「歌う警官」 2004年 角川春樹事務所
札幌大通署の刑事課盗犯係の佐伯警部補と新宮巡査が関税法違反容疑者を逮捕して署に戻ると入れ違いに強行犯係の町田警部補たちがマンションでの女性殺人事件で飛び出していくところから、物語は始まる。
若い女は着衣の乱れもなく首をしめられ頚椎を折られて死んでいた。部屋には北海道警察婦人警官のスーツがかかっていた。バックの中には婦人警官Mの名詞が入っていた。財布も携帯電話もなかった。部屋には洗濯機もなく、見つかった下着は黒のレース物ばかりだった。ティッシュペイパーとコンドームの箱も下着とともにみつかった。小型の双眼鏡"Cレコーダー、電工ナイフ、精密工具セット、目出帽、アイマスク、イヤホン、小型ラジオにそっくりの盗聴器。手錠が2個伸縮型の警棒、鎖付き警笛が数個。捕縄が4本、革ベルトが2本。町田は現場が警察の「アジト」だと気がつく。
(警察官だから、ここが警察の極秘捜査のアジトと推理するのだが、舞踏派はこれは警察官がらみのSM殺人ではないかとへそ曲がる。)
佐伯のほうは、道警本部にせっかく捕まえた犯人を横取りされて、取調べもなくなってしまった。北朝鮮がらみの銃と麻薬事件というので手柄ほしさの本部長に茶々をいれられてしまったのだった。これで、佐伯も新宮も「暇」になってしまった。
一方、町田の方も、道警本部機動捜査隊の長正寺警部の到着とともに、事件捜査から追い出されて不満たらたらで引き上げると、まもなく犯人は津久井巡査部長という警官で部屋から銃弾と覚せい剤が発見されたというニュースが飛び込んでくる。道警本部は、津久井が覚せい剤中毒者で拳銃を持って逃走中と発表し、見つけ次第射殺命令を出した。
佐伯は町田の部下の岩井に現場の状態を聞いて、首を捻る。中毒者の現場にしては片付きすぎている。町田も同意見だった。その上、佐伯は、津久井をある秘密捜査で組んで以来よく知っていたので、これは変だと思った。そこへ津久井から電話が入る。津久井は事件とは無関係で、明日道議会で警察の裏金問題で証人として召還されており、証言するつもりだと言った。佐伯は、これは、証言をさせないために、殺人事件の容疑者として道警幹部がフレイムアップして射殺して口をふさぐつもりだと見抜く。
佐伯は、町田や、新宮とこれ以上警察を腐らせたくないと思っている警官たちと秘密の捜査チームを立ち上げる。もちろん、その中にもスパイはもぐりこんでいるのだが、佐伯は、それを見抜いて、スパイ警官に偽情報を流して、道警本部を引っ掻き回しながら_4時間で、真犯人を突き止め、津久井を無事証言台に立たせるというサスペンスゲイムに突入する。
チームにベテラン捜査員の諸橋警部補がくわわり、若手の刑事たちにアドバイスをしていく。それまでの捜査結果を聞いた諸橋は、鍵は壊されていないという手口から、津久井から聞いた〕の鍵が一本郵便受けから消えているということを重大視して、部屋になかったものをしつこくたずねた。テレビが部屋にない。MDが二枚バッグに入っていたのにプレイヤーがない。諸橋は、これは窃盗のプロが事件に絡んでいて、その手口から、犯人の候補者を二人上げた。婦警の小島がその名前を警察のデータから検索すると二人とも刑務所にいた。そこで、諸橋は消えたテレビの保証書を現場から見つけると、テレビとMDを質入したものと推理して、聞き取り調査を初め、ついに売り飛ばし先を突き止め、窃盗犯人谷� �を割り出す。同時に谷川はパテックスの時計をも盗んでいた。諸橋の情報で、小島は婦警仲間に尋ねて〕はパテックスを持っていたと判明する。
このあとは、町田・佐伯が谷川の身柄を押さえたものの、道警に渡したら消されかねないと、その身柄を保護するはめにもなる。
そのうち、まともな警官が次々と協力を申し出て、その中には機動捜査隊長の長正寺警部まで消極的サボタージュで助けてくれ、佐伯は、真夜中に真犯人をつきとめ対決して自首をすすめ、翌朝は、スパイ警官と駆け引きしながら、なんとか裏をかいて、見事証人喚問を実現する。めでたしめでたし。
「笑う警官」という題は角川春樹の案らしい、彼が先代の下で編集者やってた時のヒットシリーズがマルティン・ベックシリーズだったそうで、佐々木自身も、マルティン・ベックシリーズへのオマージュシリーズを始めるにあたって、喜んで「歌う警官」から改題したらしい。でも、笑う警官というよりは、「唾棄すべき男」をもじって、「唾棄すべき男ども」とでもしたほうがぴったりだったのではないか、と思う。
それに、どうせシリーズ化するなら、権力側のテロリストスナイパー警官をここでちらりちらりと不気味な影を見せて伏線張っておけばいいのになとも思います。そう、「消えた消防車」の殺し屋みたいに。
ミステリ舞踏派久光@うん、久しぶりだな。【私のミステリな日々】を書くのも。
(この物語には「信者」がついてるらしく、「唾棄すべき男ども」とつけるべきだと書いたのに吠え掛かられてしまった。ははん、笑う警官も唾棄すべき男も読んでないな、と思ったので無視してコメント削除したのだった。まあ、粗筋を詳しく書きすぎてるじゃないかという因縁づけは少しは当たってるかもしれないけど、この傑作の魅力は筋を全部承知してても何度でも読み返せる展開と組織内健全派警官たちの健康的性格と活動にあると僕は思う。 15 octobre 2010)
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